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神童  作者: クロ
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婚約



誕生日もユーリの手作りのケーキというまさかのサプライズで祝ってもらい、出会ったころとは比べ物にならないくらい距離感が縮まり、あとは、どうやって友人以上の気持ちをユーリにもってもらえばいいか、などとぜいたくな悩みに思いをはせていた、1週間後、突然父さんに書斎に呼ばれた。



「トキ、最近ユーリとますます仲が良く、まるで友人のように扱っているそうだな。」


「そうですが、何か問題でもありますか?」


立場をわきまえていないと、苦言を呈するつもりなのだろうか。


「いや、問題はない。むしろ、生涯の友を得ることができてよかったな。


お前は、彼を大切にしていても、彼がお前のことを本当に大切に思っているかどうか、不安に思っているかもしれないが、この間は、自分の身を呈してまでお前を守ろうとしたのだ。

その気持ちは本物だろう。」


「そう言ってもらえてうれしいです。ユーリとはサンジェルマン家の援助が終わった後も友達でいたいと思っています。」


「彼は本当に将来が楽しみだからな。高等部の援助だけと言わず、将来的には、その開業の手助けをしてもいいと思っている。

彼は貧しい人も受けられる医療を提供したいらしいからな、どこかしらの援助は必須だろう。」


まさか、父さんがそこまでユーリを認めているとは思ってもみなかった。


ユーリをほめられ、将来の援助までちらつかされた僕は、最初の呼び出しに対する疑惑をすっかり忘れ去っていた。


「それはともかくとしてだ、お前はユーリという生涯の友となるべく人物を見つけただろう。


次は生涯を共にする伴侶が必要だと思わないか。

お前も分かっていたことと思うが、トキには誰かしら家柄の釣り合う淑女と結婚してもらおうと思っていた。

このたび正式にお前の相手が決まったのだ。」


「そんな、結婚相手だなんて・・・」


僕だって漠然といつかは父さんの言うような相手と結婚するのだろうということは思っていた。

だけど、それが現実のものとなると、ここまで嫌だという気持ちになるとは思いもしなかった。


「すでに誰か心に決めた人がいるのか?


それはないよな。お前の口から出るのは何かと言えばユーリ、ユーリだ。

彼以上に大切な女性などいないのだろう。


ならば何も問題はないはずだ。彼はきっとトキがどんな相手と結婚しようともお前の友であり続けるだろう。」


「ですが・・・」


真実の気持など言えるはずがない。結局のところユーリとは友達でしかいられないのだ。どれだけ僕が望もうとも、僕には伴侶を得て、後継ぎを残す義務がある。ユーリとでは当然後継ぎが生まれるはずはないのだ。


「たとえいたとしても、これは決定事項だ。

お前もこの前のパーティであったと思うが、マリエッタ・ウェストファリア嬢だ。


彼女とは家柄も釣り合うし、美しく気品もある文句のつけようがない淑女だ。お前も不満はあるまい。

明日から結婚前にお互いを知るために会う機会が増えるだろうが、決して失礼のないようしなさい。


あの将来が楽しみな彼が大切だと思うならばね。」


「分かりました。」


僕が決められた婚約者だなんて抵抗するのは予想済みだったらしい。ユーリを援助する価値があるほど優秀だと認めたうえで、僕次第ではそれを打ち切るとほのめかすだなんて、父さんも僕の操り方を心得ている。


父さんがユーリを認めているというのは本当だろう。だけど、僕の将来とユーリとを天秤にかけた時間違いなく傾くのは僕の方だ。

僕が彼女を邪険に扱うようなことがあれば、父さんはためらいもせずにユーリを切り捨てるに違いない。


どうせ、いつかは来ると分かっていたことなんだ。

ユーリは僕のために自分の命すら危険にさらしてまで守ってくれた。

僕が決まっていた未来に対して意味のないわがままをすることで、ユーリの将来を費やすことがあってはいけないのだ。






父さんの書斎から出たその足でユーリの部屋へと向かった。



「ユーリ、話があるんだけど今いいかい?」


「もちろんです。とにかくお入りください。


どうかなさったのですか?」


「実は、僕の婚約者が決まったんだ。

この前、パーティで会ったウェストファリア嬢だよ。」


「それはおめでとうございます。彼女なら美しい淑女であると評判ですし、ウェストファリア家ならサンジェルマン家にとってもよい縁談ですよね。」


まるで世間話でもするように、祝福の言葉を口にするユーリは、思った通り、僕のことを何とも思っていないのだろう。


「ねぇユーリ、僕が誰と結婚しても、ずっと友達でいてくれるよね。」


せめて友達としてでもいい、ユーリとはずっと一緒に居たい。大好きなユーリがいるからこそ、自分の運命を受け入れることに決めたのだから。


「トキ様が私をいらないと思われるまで、ずっとおそばにおりますよ。」


「ユーリ、大好きだよ。」


「私も大好きです、トキ様。」


僕とユーリでは好きの意味が違うことももちろん分かっている。


だけど、もう十分だ。きっとユーリが僕のことを大切に思っていてくれる気持ちは本物だ。

ユーリとはずっと友達と一緒に居られる。


ウェストファリア嬢も評判になるほどの御令嬢なのだから、きっとこれから知っていけば、将来上手くやっていけるはずだ。


ユーリを生涯の友として、ウェストファリア嬢を伴侶として幸せを築いていこう。






そう決意していたが、現実は思った通りにはいかないものだった。








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