誕生日
パーティがいざ始まってみると、ユーリは宣言通り、他の使用人たちと同じ格好をし、忙しそうに給仕をしていた。
僕の誕生日パーティとはいっても、実際には、食事をしたり、のんびりする暇はない。
次々と、サンジェルマン家に関わる家の人たちとあいさつを交わし、それとともに、現在の状態などをそれとなく聞いておく。
ようやく一段落して、エリックや、アートのもとに行くことができたのは、パーティが始まってから、すでに1時間は経過した頃だった。
「お疲れ、トキ。相変わらず、主役が一番忙しいんだな。」
「そうなんだよ。せっかく家のシェフたちが腕をふるって作ってくれた料理もだべる暇もないんだから。」
「大変そうだな。そういえば、今日はユーリは一緒じゃないのか。
お前らはいつでも一緒に居るものだと思っていたが。」
「ユーリなら、ほら、あっちで飲み物を配っているよ。
使用人の数が足りないから、今日はそっちの手伝いらしいんだ。」
この家に来てから、ユーリは僕の食事の給仕以外は、一般的な使用人らしい仕事はしていないのにもかかわらず、とてもてきぱきと、かつ丁寧に接客をしていて、動きに無駄が全くない。
「ほんとだ。
ちょっと呼んでみようぜ。」
そういうとアートは、ユーリにドリンクをもってくるよう手で合図を送っていた。
「お待たせいたしました。」
「早いな。さすがユーリだな。それにしても、今日は急な仕事で大変そうだな。」
「いえ、これが本来の仕事ですから。普段が特別すぎるんですよ。」
「それに、今日は敬語なんだな。」
「この場では、私の友人ではなく、トキ様の友人としての招待客ですから。」
そこから、若干堅苦しくも、いつもの4人のように会話がはずもうとしてきた時、一人の少女が、ユーリと僕らの前に入り込んだ。
「こんばんわトキ様。このたびは、16歳のお誕生日おめでとうございます。」
「ありがとう。ところで貴方はどちらの方ですか。」
「申し遅れました。私、マリエッタ・ウェストファリアと申します。」
ウェストファリア家といえば、サンジェルマン家と肩を並べる名家だ。
「はじめましてマリエッタ嬢。トキ・サンジェルマンです。このたびはわざわざお越しいただいてありがとうございます。」
「いえ、トキ様が、こんな素敵な方だと分かってとてもうれしいですわ。
これからが、とても楽しみになりましたわ。トキ様とは長いお付き合いになっていくと思いますので、これからも宜しくお願いしますね。
それでは、ごきげんよう。」
言いたいことだけ言い残して、マリエッタ嬢は去っていった。
それにしても、長い付き合いとは何のことだろう。
なんだかすごく嫌な予感がする。
マリエッタ嬢と話しているうちにユーリは他の客に呼ばれて行ってしまい、結局その後パーティ中にはユーリと関わることはなく、僕の誕生日パーティは終了した。
パーティが終了して部屋に戻ってしばらくすると、ユーリが何かを抱えて、部屋に入ってきた。
「トキ様、遅くなって申し訳ありません。」
「いや、むしろ疲れているのにその後に付き合ってほしいだなんてごめんね。」
きっとユーリは朝早くからいままでずっと働きっぱなしだったのに、自分のわがままで、唯一の休憩時間も拘束することになってしまったんだから。
あの時は、上手く誘えたことで有頂天になっていたけど、今思えばユーリには酷なことを強いている気がする。
「いえ、トキ様と一緒に過ごすのは、仕事とは違って本当に楽しいですから。
だって、トキ様は私を友達だと言ってくださるのでしょう?」
「そう言ってもらえるとうれしいよ。
ユーリはちゃんとご飯食べれた?僕はせっかくのパーティだったのに全然だよ。」
「やっぱり食べられませんよね。
そう思って、トキ様へのプレゼントはこれにしました。」
そういって、ユーリは先ほどから抱えていた箱を僕に差し出した。
中を開けると、そこには、フルーツがふんだんに使われ、きれいにデコレーションされたケーキが入っていた。
「ありがとうユーリ、うれしいよ。
でも、気を遣わせちゃってごめんね。こんなすごいケーキ高かったでしょう?
ユーリは自分にも買いたいものもあったと思うのに。本当にごめんね。」
「いえ、それは自分で作ったので、トキ様はお気になさらないでください。」
「えっこれを自分で!?」
むらなく塗られたクリームも、きれいに飾りつけられたデコレーションも、このまま店に売っていてもおかしくないほどなのに。
「はい、昨日のトキ様のご様子から、何か買っても今のようにかえって気を遣わせてしまうと思ったものですから、今日のパーティ用に大量に用意されたいた材料を少し分けてもらって作りました。
なので、厳密にいえば私からのプレゼントとは言えないかもしれませんが・・・」
「だってユーリが作ってくれたんだろう?
すごいよ、こんなにおいしそうできれいなケーキが作れるだなんて・・・
美味しそうどころじゃないよ。本当に美味しいよ。ユーリ本当にありがとう。」
ユーリが作ってくれたものだから、どんなものでも美味しいとは思っていたけど、このケーキはお世辞なしに本当においしい。
僕だけでなくたとえユーリのことを嫌っていても美味しいと思えるぐらい。
「喜んでもらえてなによりです。
トキ様ももう16なんですよね。出会ってからも9カ月もたっているだなんて信じられないです。」
「僕もだよ。ユーリこれからもよろしくね。
ユーリがサンジェルマン家の援助を必要としなくなっても友達でいてくれる?」
「もちろんですよ。」
「じゃあ、その時は今度は本当に対等な立場で友達だからね。」
ユーリはその言葉には答えてくれなかったけど、代わりに返してくれた微笑みが、少なくとも友達でいてくれる、というのは本当に思ってくれているように感じられた。
対等かどうかなんて、後からどうとでもできるし、この時はとにかく、ユーリとこれからもずっと一緒に居られるような予感に幸せで一杯になりながら、今までで一番うれしい誕生日の余韻に浸っていた。
この平穏を脅かすものが近づいていることに気付くこともなく・・・




