山村の黒い煙
グラウゼン北方の山村から、黒い煙が上がった。見張りは敵襲だと思い、セリアへ使者を出した。しかし煙の立つ場所は村の共同炉だった。冬の薪が足りず、住民が湿った泥炭を燃やしていたのだ。
セリアは軍を動かさず、まず使者に村の火の扱いを尋ねさせた。屋根の低い家に煙が入り込み、幼い子が咳を続けているという。塩を運べた村でも、暖房の問題は残っていた。
評議員アーネは泥炭の乾燥場所を作る案を出した。だが村には晴れた日が少なく、積雪の重さで棚が潰れる恐れもあった。
村の老人は、昔使っていた石の乾燥小屋を教えた。崩れた屋根を直せば再び利用できる。ただし軍の山道から材木を運び込むには、冬営隊の許可がいる。
セリアは小屋の修理を認め、兵用に集めた板の一部を回した。代わりに村人から春に使える乾燥泥炭の作り方を教わることになった。
その夜、見張りは黒い煙を見ても警鐘を鳴らさなかった。煙の色で敵と味方を決めることはできないと知ったからだ。
共同炉を預かる男は煙の出口を変える際、強い北風が吹いた日のことを心配した。風向きが逆になれば、煙は寝室へ戻る。職人は紙の切れ端を細い棒に結び、炉の近くで空気の動きを確かめた。子どもは遊びだと思って紙を追いかけたが、大人たちは毎朝風を見ることにした。煙の少ない火を保つ仕事は、材木を届けただけでは終わらなかった。
翌朝、村の炉に来た母親は咳をする子を背負っていた。煙を減らすまで火を消せない。燃料がなければ凍える。職人は風の通り道を変える試みを始め、最初の小屋では煙が戸口から外へ流れた。戦争のために集められた木板が、一晩だけ子どもの呼吸を守った。




