存在しない五十人
首府の記録官イナは、避難民の数が報告ごとに五十人違うことを見つけた。川の橋で数えた者、学校で受け入れた者、医療所にいる者。互いに移動しただけの人間が重なって記録されていた。
上官は見栄えの良い数字へ揃えるよう命じた。だがイナは、いない五十人のために食料が用意される一方、登録されていない者は配給に並べないことを心配した。
彼は市の広場へ行き、どこで名前を登録したか聞き取った。旅人の一人は三つの場所に名があり、祖母はどこにも載っていなかった。
「私は自分の名前を三度言っただけです」と旅人が言った。
イナは番号を振る案を思いついたが、家族に数字だけを付けることへの反発もあった。代わりに出身地と現在の寝場所を別の欄へ書き、移動した日を添えることにした。
作業を手伝った若い書記は、紙が足りないと訴えた。イナは古い戦況図の裏を使おうとしたが、そこにはまだ帰らない兵の位置が描かれていた。簡単に消せる記録ではない。
夜、彼は頁を縫い足し、祖母の名を最初に書いた。街の人数は五十人減り、一人増えた。数字だけ見れば矛盾している。しかし配給所で祖母が粥を受け取れるなら、訂正は役に立つ。
調査へ協力した商人は、旅人の出入りをいちいち記録されると商いが遅れると訴えた。イナは全員に同じ紙を書かせるのではなく、宿場でまとめた人数と街の配給に登録した人数を区別する方法を試した。宿場で寝た者が全員この街に暮らすわけではない。数字を増やすほど世界が正しく見えるという思い込みを、彼は少しずつ捨てていった。
記録室の窓では風が紙を揺らした。古い地図を押さえる石を置き、イナは次の報告を開いた。




