首府の麦倉
エルデン領の首府で、来年の種麦を食料へ回すべきだという案が出た。西岸から来た避難民が増え、街の配給が細っていたからだ。領主アルセンは倉を開き、残量を目で確かめた。
種麦は食べられる。しかし春に蒔く分を減らせば、次の年はもっと苦しくなる。評議会では、今の子どもを飢えさせないために来年の収穫を犠牲にするかで争った。
倉庫係セルマは、種として使える麦と、すでに発芽力が落ちた麦を別に数えていた。湿った倉の奥に置かれた袋には、芽が出ないものもある。
「全部を同じ種として守っても、畑は増えません」彼女は言った。
農夫が小さな皿に麦を並べ、布で湿らせて芽を試した。翌日、いくつかは芽を出したが、ほかは黴びた。食料へ回せる量は予想より多くも少なくもなかった。
アルセンは倉の管理者に責任を問いかけたが、セルマは怒られる前に、なぜ湿気が入ったかを報告した。古い排水路が詰まり、床がわずかに傾いていたのだ。
修理の人手を手配した後、領主は配給を少しだけ増やす決定を出した。街の人々は事情を知らず、今夜の粥が少し濃くなったことを喜んだ。
農夫は芽の数を確かめる際、種の袋へ作られた年の印を付けていた。倉の係は古い麦から使えばよいと考えたが、古すぎれば芽が出ない。セルマは残す袋を年順に並べ替え、村へ渡す前に試験の結果を知らせるようにした。種の失敗を農夫の責任へ押しつけないためだった。試験で芽を出した麦は、誰にも踏まれない棚の隅で緑を伸ばしていた。
倉の扉には翌春へ残す袋の数が貼られた。アルセンはその数字を何度も見返した。豊かな領主であるという評判より、春の畑に出る芽の方が確かな力だと彼は思った。




