種麦の鍵
東岸の穀物倉は二重の鍵で管理されていた。一つは軍、一つは村々が持つ。双方が揃わなければ開かない仕組みは、昔、軍の徴発で冬の食料を失った年に定められた。
倉番の女性サラは、その決まりを破ろうとは思わなかった。しかし橋から運ばれてきた病人に粥を作ると、倉の小麦が想定より早く減るのも事実だった。彼女は枡を並べ、受け入れ人数を帳面に書き直した。
「一人ぶんを薄くするしかない」
助手が言うと、サラは首を横に振った。
「病人の一杯まで薄くしたら、医者の手間が無駄になる。ほかを探そう」
倉の北側には、去年の秋に水をかぶった麦袋が積まれていた。種には使えないが、傷んだ部分を除けば食べられるものもある。サラは村長たちの許可を得て、選別する人手を募った。
来たのは東岸の農婦だけではなかった。西岸から渡った老人二人と、まだ熱の残る子の母親もいた。名簿には出身の欄があったが、作業台でそれを口にする者はいない。
夕方、助手が数えた袋は十四。冬を越せる量にはほど遠かったが、翌朝の粥を作るだけなら足りた。
帰り際、母親はサラに、故郷の麦の選り方を教えた。焦げ色の粒を指先で割ると、傷みが中まで進んでいるか分かるのだという。サラは試して、確かにそうだと認めた。
選別場では、使えない麦を土へ埋めるか家畜へ回すかでも意見が分かれた。サラは傷みのひどい袋に印を付け、畑へ戻してよいものと、触れさせてはいけないものを区別した。食べ物として失った麦も、次の病の原因にしてはならないと考えた。
夜、二つの鍵が並んで倉の戸を閉ざした。帳面の残量は減っていたが、選別できる麦の見込みだけが少し増えた。サラはその数字に小さな丸を付けた。




