数えられない家
西岸の人口調査隊は、軍の地図で空白になった南の集落を歩いていた。調査官のオルフェは三十代の男で、もとは市場の税務係だった。兵に転じてからも、人の名前を確かめる癖だけは抜けない。
十二人だけが残ると聞いた村には、二十一人いた。冬の間に親戚が戻り、廃屋を直して住んでいたのだ。戸口に立つ老夫婦は、最後に役人が来た年を忘れていた。
「名前を教えてください」
「名前を言えば、麦を持っていくのかね」
オルフェは立ち止まった。これまでの役人は、人を数えるたび徴発も命じていたらしい。
「今度は水路の修理に必要な人数を確かめている。麦には触れない」
老人はすぐに信じなかった。代わりに、裏庭の水瓶を見せた。底に泥がたまり、飲み水を澄ませるため布を何枚も重ねている。
村の名簿を作り直す作業は、昼までかかった。家々には戸籍にない子が七人いて、その一人はオルフェの筆を不思議そうに見つめた。
「書けば、人はそこにいることになるの?」
「書かなくても、いる。ただ、遠くの役所が知らずに済んでしまう」
少女は納得したのか分からない顔をした。それでも自分の名前が紙に現れるところを、ずっと見ていた。
帰路、護衛が今さら二十一人を救えるのかと尋ねた。オルフェは馬もない泥道を踏みしめながら答えた。
「水を戻す順番が変わる。二十一人なら、必要な桶の数も違う」
オルフェは村の井戸の位置も書き留めた。井戸は一つだけで、冬には周りが凍る。老人は近くの石段が滑りやすいことを示し、以前そこで骨を折った人の名前まで教えた。人口表だけ持ち帰るつもりだった調査官は、道と水の頁を足した。
司令部で提出された人口表は、以前のものより分厚くなった。ヴァルドはその紙束を開き、最初の頁にある村の名前をゆっくり読んだ。




