徴発の印
西岸ヴェルクの南部で、兵糧を集める役人が農家の戸へ赤い印を付けて回っていた。印のある家は次の徴発日に麦を出さなければならない。雨で収穫を失った家にも、同じ印が付いていた。
厨房長オミルは、兵舎へ運ばれた麦の中に湿った粒が多いのを見つけた。無理に納めさせても保存できず、食料庫で腐る。
彼は徴発を止める権限を持たない。そこで袋ごとに収穫場所を記し、どの土地から傷んだ麦が届いているかを調べた。同じ村の袋ばかりが湿っていた。
ヴァルドは記録を受け取ると、その村への徴発を一度延期した。代わりに溝掘りの労働を求め、畑の排水を先に直すことにした。だが役人は予定量が減った責任を恐れ、延期命令の写しを何度も求めた。
「私の名で出せ」ヴァルドは言った。
翌日、赤い印を削ろうとしていた農夫は、役人から延期の紙を受け取った。彼は喜ぶより先に、溝掘りの集合場所を尋ねた。労働が終わるまで家の畑を放っておけるか分からなかったからだ。
延期を伝える紙を受け取った役人は、徴発の日付を訂正するため村の家を巡った。ある家では赤い印を消さないでほしいと言われた。印を削れば、次に来た別の役人が未納だと疑うかもしれない。役人は印の横へ新しい記号を付け、延期命令の写しを戸口で読んだ。住民にとって赤い印は嫌なものでも、昨日までの命令があった証拠でもある。その二重の意味を役人は初めて理解した。
オミルの厨房では乾いた麦と湿った麦が別々の倉へ運ばれた。兵は同じ量の粥を食べたが、味は少し変わった。徴発の数字が直ったことを知る者は、食堂にほとんどいなかった。




