湿原の白い斜線
ルーヴェへ届いた手紙には、白い斜線の紋章が押されていた。オーデンの故郷ネサからで、妹が町の板道修理に加わったという知らせだった。手紙の最後には、隣市ドルケとの水門紛争が再び激しくなっていると添えられていた。
オーデンは返書を書く前に、手元の堤防図を広げた。湿原でも河口でも、流れを一本の線で示せば、どこかの低地が見えなくなる。彼は妹へ、潮と雨を同時に測る方法を記して送ろうとした。
イベラは帰郷を勧めた。しかしオーデンは工事の途中で立ち去れば、ルーヴェの職人が石積みの理由を知らないまま残されると答えた。
そこで彼は若い石工二人を呼び、堤防の空洞を見つける手順を教えた。木槌で叩いた音を聞き、石の奥が湿っていないか確かめる。工夫は見よう見まねで身につくが、なぜそうするかを知っていなければ危険だった。
練習の途中、一人が誤って健全な石を割った。オーデンは叱らず、割れた断面を使って内部の砂の違いを示した。もう一人はその様子を紙へ写した。
夜、オーデンはようやく妹への返事を封じた。故郷の戦いが心配だと書いたあと、ルーヴェの潮の記録も同封した。遠い町の水位が、故郷の誰かを救う日が来るかもしれない。
ルーヴェの石工たちは、遠い湿原の争いに自分たちが関わることを警戒した。オーデンは軍への技術提供ではなく、堤防の崩壊を防ぐ手順を妹へ送るだけだと説明した。イベラもその区別を尊重したが、手紙が途中で奪われる可能性は残る。そこで職人たちは地図の軍事施設を描かず、潮を測る場所の土質と時刻だけ記した。少ない言葉で役立つ知識を渡す工夫だった。
手紙を運ぶ船には軍旗がなかった。荷の中身を知るのは船頭だけで、二つの町の間の海は今日も荒れていた。




