水門の鍵は誰のもの
湿原都市ネサと隣市ドルケの境界には、三つの水門があった。双方は真ん中の門を奪い合っていたが、門の鍵を保管する小屋はネサ側にあった。ドルケの使者は鍵を半分に分けろと言い、ネサの議員は門ごと渡せと迫られているように感じた。
鍵師の老婆は、鍵を二つに割ればどちらも使えなくなると説明した。それでも議会の若い兵は、ドルケに渡す物は一欠片もないと言い張った。
その晩、真ん中の水門が開かなかった。鍵穴に泥が詰まっていたのだ。門の上流では雨が続き、下流の畑はすでにぬかるみ始めている。水を逃がせなければ両市の作物が腐る。
双方の兵は盾を構えたまま門前でにらみ合った。鍵師は彼らを無視して油と細い針金を取り出し、鍵穴の泥を掻き出した。道具は鍵を直すためのもので、誰かを傷つけるものではなかった。
ようやく鍵が回ると、水はゆっくりと落ち始めた。若い兵は勝ったように叫んだが、老婆は門の両側を見た。「水に旗はないよ」
翌朝、ネサは鍵を渡さず、代わりに門を動かす時間を記した表をドルケへ送った。信用するかどうかは相手次第だった。
鍵師の弟子は、軍の将校に古い鍵穴の構造を教えることを嫌がった。仕組みを知られれば門を奪いやすくなるかもしれないからだ。老婆は弟子の不安を否定せず、故障を見つける方法だけを双方の水番へ伝えた。門を動かす技術のすべてを共有せずとも、壊れる前に知らせ合うことはできる。若い兵はようやく盾を降ろし、水の落ちる音を聞いた。
鍵師は家に戻り、摩耗した金具を布で包んだ。鍵を奪うことばかり考える若者たちに、鍵を作り直せる者が減っていることを誰か伝えなければならなかった。




