網を繕う島
海峡の小島ハルノでは、商船が戻らないまま網の修理が続いていた。漁師たちは干した魚を本土へ売り、代金で冬の穀物を買う。船が帰らなければ、魚は倉へ積み上がるだけだった。
島長の老婆は、島の若者をサルディアへ送り出そうとする声を退けた。剣士を集めても、相手の港には何倍もの兵がいる。それより潮の変わる季節に備えて小舟を修理する必要があった。
青年の一人が尋ねた。「魚を売れないなら、取る意味がないのでは」
老婆は港の裏へ案内した。そこには、漁に出られない老人たちが魚の骨を砕き、畑の肥料にしていた。島には狭い畑しかないが、その土で豆と根菜を育てている。
「売れない魚は、ここの土になる」
青年たちは小舟の修理をしながら、漁獲の一部を干物ではなく肥料へ回すことにした。海峡の通行が戻れば、買えるものも増えるだろう。戻らなくても、島で生きる方法を全部失うわけにはいかない。
数日後、沖を流れてきた木箱が拾われた。サルディアの港印があり、中には破れた帆布が詰まっていた。誰の船のものか分からない。島長は船名を探し、岸に残った人たちへ知らせを出した。
干物の倉には、船を待つ家族が当番で泊まるようになった。盗みを防ぐためだったが、夜には互いの話を聞く場所にもなった。祖父は昔の海峡を語り、若者はそれほど自由に渡れた時代が本当にあったのかと尋ねた。誰も証拠を見せられない。ただ、古い船の梁に刻まれた寄港地の名前だけは残っていた。少年はその一つを紙へ写した。
夜の食卓で、子どもが帰らない船長の名前を挙げた。大人たちは「帰る」と約束しなかった。ただ、明日の潮に合わせて見張りを立てると決めた。




