海峡の夜船
遠い海峡では、潮待ちの商船が夜のうちに拿捕された。襲ったのは沿岸王国サルディアの剣士たちだった。舟を横づけにして盾を重ね、甲板へ踏み込んだ。弓も槍も使わない海戦では、甲板の幅と船員の足元が勝敗を決めた。
商船を守っていた船員は剣を持っていたが、荷を積みすぎて退く場所がなかった。船長は争いを続ければ船底に穴が開くと考え、降伏を命じた。
拿捕隊の隊長は積荷の確認を始めた。船倉には乾燥魚と布のほか、小さな手作りの人形が二十個あった。隊長は金目のものだと思わず、数に入れなかった。
船長は人形を島の孤児院へ運ぶ約束をしていた。布を縫ったのは、反対側の港で暮らす老人たちだという。隊長はそれを聞いても荷を返す権限がなかった。
海峡を支配する王家は、通行税を払わない船を没収する命令を出している。一方、商船が出た島ではその税を認めていない。
朝、拿捕された船はサルディアの港へ曳かれた。船長は人形の箱だけを預かり、島の名を記した紙を添えた。港の倉庫番は黙って受け取り、船員の食料から減らさない場所へ置いた。
拿捕隊の若い兵は、抵抗をやめた船員の剣を預かる仕事を任された。塩気を帯びた刃には細かな錆があり、取り上げたままでは使えなくなる。彼は一本ずつ布で包み、持ち主の名と結び付けた。船員の一人は弟から借りた剣だと話した。若い兵は敵の品に手を掛ける自分を不思議に思ったが、預かった物を失えば港でまた争いになることは分かっていた。
沖では別の船が進路を変えた。船影は小さく、所属も目的も分からなかった。海峡の狭さに比べ、そこを行き交う者の事情はあまりに多かった。




