国境で割れた椀
王領の峠番小屋で、連邦から来た石工が食事の椀を割った。すぐ弁償すると申し出たが、王領の兵は故意だと言い張った。前日に青盾の使者が通行日を変更し、兵の交代が遅れていたからだ。
小屋を預かる老婆は、椀の割れ目を見て笑った。焼いたときの歪みが残っており、熱い汁を注ぐたび音を立てていたという。
しかし兵は引き下がらなかった。外国の職人が来る前から、国境は緊張している。些細な失敗でも面目を失いたくないのだ。
ユリウスに同行する若い記録係は、双方の名前を帳面へ書きかけた。老婆はそれを止め、まず割れた椀の代わりを出した。
「犯人を決めても夕飯は食べられないよ」
食卓には十人が座った。兵は剣を壁へ立て、職人は汚れた手を洗ってから席についた。食事の終わりに王領の班長が、翌朝の仕事は排水路の蓋を開けることだと告げた。
翌朝、蓋の石は予想より重く、四人がかりでも動かなかった。王領の兵は最初、手伝うなと命じられていた。だが崩落しかけた梁を見て、班長は盾を脇へ置き、職人たちと石を押した。
老婆は割れた椀の欠片を集め、土の器を焼き直すには薪が要ると話した。戦場へ送る燃料が増えたため、近所の窯はしばらく休んでいる。石工は弁償のために自分の椀を差し出したが、それでは宿場の食器が増えない。彼は作業の帰りに土を運び、陶工が窯を開く日に手伝う約束をした。謝ることと、失われたものを元に戻すことは違っていた。
排水路には流木と砂が詰まっていた。誰の国境かを決める線より古い水が、その先から滲み出てきた。椀を割った職人は、小屋へ戻る途中で陶工の家を探した。約束した弁償だけは、争いと別に果たしたかった。




