灰色の盾
北方自治都市連合グラウゼンの女将軍セリアは、旧通信塔の下で南の街道を見渡していた。千二百の兵士が灰色の盾を持ち、後ろを荷車と道路職人が進んでいる。連合の集落では塩が不足し、肉を保存できないまま寒期を迎えようとしていた。
「南の商隊は戻ったか」
「三隊とも不明です。西の関所は閉鎖されています」
副官は攻めるべきだと言ったが、セリアは街道の崩れた路肩に目を向けた。関所を奪っても、運べる道がなければ塩は届かない。
「先に商人を探す。荷を止めた者と、道を壊した者が同じとは限らん」
山を下る途中、古い道路標識が半分地面に埋まっていた。そこには遠い海辺までの距離が記されていたが、いまもその道が通れるかを知る者はいない。第三次大戦より前、世界は一枚の地図で繋がっていたという話だけが残る。
斥候は、関所を守っているのが西岸の紋章を付けた避難兵と、東岸の言葉を話す民兵の混成だと報じた。セリアは眉を寄せた。
「誰かが両方を雇ったのかもしれん。あるいは故郷を失っただけか」
夕方、彼女は関所から離れた谷の家を訪ねた。年老いた塩商人が一人、空の樽を並べていた。
「塩はどこへ行った」
「海からは来てる。ただし南で止まってる」
「誰が」
老人は窓を閉めてから答えた。
「海沿いに新しい印が増えた。赤い円を描いた旗だ。連中は通行料を二度取る」
遠征に出る前、セリアは連合の三つの市長から異なる注文を受けていた。塩の確保、街道の警備、商人への課税停止。全てを同時に満たせる保証はない。だから彼女は一通ずつ返書を用意し、できないことも書いた。軍に任せれば解決するという期待こそ危険だった。
セリアは老人の使い込んだ秤に目を留めた。軍の報告にない国境が、商人の道にはすでに生まれていた。




