占領地の戸板
ミシュラ軍が占めたラウゼの峠村では、空き家の戸板が次々に外されていた。兵舎の寒さを防ぐためだ。将軍ゲレンが現場を訪ねると、部下は住人が戻る見込みは薄いと説明した。
「戻らないと決めたのは誰だ」
答えはなかった。ミシュラは峠を奪ったが、土地を暮らせるまま保つ命令は本国から届いていない。むしろ早く前進せよという催促が増えていた。
村で暮らしていた老人が薬箱を取りに来たことを、ゲレンは覚えていた。戸を失った家へ住人が戻れば、冬の風をどう防ぐのか。彼は戸板の徴発を止め、兵に自分たちの天幕を補修させた。
ところが前線から、南の谷に敵の盾が集まっているという報告が届く。部下は防備を厚くするため、村の木材を使うよう求めた。ゲレンは判断を迫られた。
彼は村の広場で木材を数えさせ、住人の物と所有者不明の物を分けた。兵たちは不公平だと不満を言ったが、ゲレンは本国へ不足を正式に報告し、補給の責任を逃れない形を選んだ。
夕方、隊の料理番が凍った戸の隙間へ布を詰めた。寒さは残ったが、翌朝になっても村の家は立っていた。
戸板を外した兵は、命令の取り消しに腹を立てた。自分たちが眠る床は石で冷たい。ゲレンは兵たちの寝床へ行き、必要な毛布の数を確かめた。将軍の天幕も寒かったが、それで部下を黙らせようとはしなかった。後方から届く予定の布の到着が遅れており、今は天幕を密集させて風を避けるしかない。戸を戻す作業には、取り外した兵自身が参加した。
その頃、南へ逃れたラウゼの老女は、家の扉に刻んだ孫の背丈の印を思い出していた。帰るとき同じ場所で測れるだろうか。その問いに答えられる者は、峠のどちら側にもいなかった。




