渡れない父親
ハルヴァンの妻は、西岸で次女の手を引きながら橋の列に並んだ。東側の医療所にいる長女を見舞うためだった。通行札には父親の名前があるが、妻と次女の欄は空いている。門番は別の確認が必要だと言った。
ハルヴァンは西岸軍の伝令として、いくらでも橋へ行けた。しかし家族のために使う許可は持っていない。彼は門番を責めず、詰所で新しい札を申請した。申請先には東岸の村名が必要だったが、妻は医療所がどの村に属するか知らなかった。
そこへ学校教師ノアが通りかかった。西岸から来た児童の迎えを待っていたのだ。彼は医療所の所在地を書き、子どもが何のために渡るかを聞いた。
「姉に会うためです」次女は小さく答えた。
ノアは書類にそのまま記した。家族を離す時間が長ければ、病気が治っても帰れる場所が失われると考えたからだ。
午後遅く、門番は二人を通した。医療所では長女が寝台を離れ、廊下の窓から橋を見ていた。妹を見つけると走りかけ、医師に歩けと叱られた。
父親は廊下の端に立ったまま、抱き合う三人を見ていた。東西の軍が並ぶ橋を自分は何度も渡ったのに、この一歩を家族に許すには多くの紙が要った。
東岸の門番は、申請書に書かれた「家族」という語の範囲を確認した。血のつながらない養い子も通せるのかと尋ねられ、ノアは学校にいる孤児たちのことを思い出した。門番は今すぐ規則を変えられなかったが、後日審議できるよう曖昧な箇所を書き留めた。許可を得た家族だけが救われる仕組みでは、橋の列に残る者は減らない。
帰りの時刻になると妻は再び西へ戻らなければならなかった。長女は泣かなかった。次に会える日付が札に書かれているのを確かめ、父の手に小さな紙片を握らせた。そこには妹へ教わった歌の出だしだけが書かれていた。




