塩袋の縫い目
赤環市から出た荷車の塩が、北へ着く頃には減っていた。記録係は盗難を疑ったが、商人ナゼルは破れた袋を荷台へ並べて見せた。縫い目が湿気で緩み、車輪の揺れに合わせて白い粒がこぼれ落ちていた。
荷を受け取るグラウゼンの評議員アーネは、損失の欄を二つに分けた。道で落とした塩と、倉で濡れた塩。両者を同じ「不足」として書けば、誰を責めるべきかも、何を直すべきかも分からない。
袋を縫った職人は呼び出され、最近使い始めた糸を見せた。麻の産地が戦場になり、別の谷で採れる繊維へ替えたのだという。見た目は丈夫でも、塩水に触れると膨らんで切れる。
「前の糸を手に入れろというなら、南へ剣士を出して下さい」と職人が言った。
アーネはそれを命令しなかった。職人に乾燥試験の費用を渡し、ナゼルには一部の塩を硬い容器に詰め替える案を頼んだ。容器は重く、荷車の積載数が減るため、どちらが得か確かめなければならない。
その夜、北の燻製職人は、届いた少ない塩で肉を仕込む順番を変えた。冬の前半に食べるものを乾燥肉にし、長く置く分へ塩を回す。
試験では、古い麻糸の袋を水に浸すと縫い目が締まり、新しい繊維では逆に広がった。商人の一人が容器を木箱へ替えると提案したが、今度は空箱を回収する道が必要になる。アーネは単に丈夫な入れ物を買うのではなく、街道を一往復したあとの損耗で比較するよう求めた。容器の重さが増えれば、同じ車で運べる食料は減る。北の冬にはどちらも軽くない。
翌朝、記録係は街道に白い筋を見つけた。落ちた塩が夜露を吸い、土に滲んでいた。誰かが盗んだ痕跡ではなく、道と袋の相性が悪かった証拠だった。彼はその場所を地図に残した。




