長い戦争の朝
朝の橋には、いつもと同じ霧があった。旧鉄道橋の東側では麦袋が運ばれ、西側では避難民が列を作っている。修理した水路の報告も届き、医療所には新しい寝具が入った。
エドランは橋の中央でハルヴァンと会い、今日の通行人数を確かめた。病人は十七人、子どもは二十六人。そのほかに商人と職人が数人。誰も全員を救えるとは言わない。
「峠でまた戦があったそうだ」
ハルヴァンが言った。
「北の小領邦か」
「そうだ。村が空になった」
エドランは黙って川を見た。橋を守っていても、遠くの峠までは守れない。そこにも家族があり、食料と水を求める人がいる。
東の首府では記録官イナが世界地図へ新しい報告を加えていた。南西の青盾連邦、西の湿原諸国、海の向こうの王国。どこにも争いのない場所があるのか、届く知らせだけでは分からない。
グラウゼンでは塩の車が出発し、赤環市では門の税札が剥がされた。ラウゼの仮住まいでは子どもたちが新しい井戸の周りを掃除している。峠の上ではミシュラ軍が補給車を待っていた。
第三次世界大戦で失われた機械の時代は戻らなかった。剣と盾が残り、国家と市場が別々に形を変えながら争いを続けている。
イナの棚には、各地の戦いについて異なる呼び名が残っている。大河の争い、峠の戦、海峡戦役。どの土地の人も自分たちの争いが一番大きいと思っていた。古い記録には、世界を巻き込んだ戦争には番号が付けられていたとある。いま各地で続く争いを第四次世界大戦と呼ぶ学者もいたが、その名が広く伝わるにはまだ時間が必要だった。
エドランの足元には、白線がまだ薄く見えた。誰かが塗り直したわけではない。長い年月を越えて残った線の上を、今日は病人を乗せた荷車がゆっくり渡っていった。




