二本の道
ヴァルドが東岸へ送った封書には、二つの要請が書かれていた。一つは医療所への薬草の通行を継続すること。もう一つは、上流の水路を軍の移動路に使わないこと。修理した道へ兵が増えれば、また水を止める争いになる。
エドランは使者と面会し、返答を急がせなかった。ヴァルドの要請は自軍にも有利だが、上級領主から別の命令が来れば守れなくなる可能性がある。
「約束するなら、破れない形にしたい」
エドランは評議会とアルセンへ書状を回した。村長たちは水路を守ることに賛成したが、軍が侵入したときの対応について意見が割れた。
結局、工事に関係する人以外が水路へ入る場合は事前に連絡すること、武装兵の集団通行は双方の現地指揮官が協議することになった。
封書を持って帰るハルヴァンは、橋の白線を一度踏み越えたところで振り返った。東側の医療所には娘がいる。西側の天幕には妻ともう一人の娘がいる。
家族が同じ岸で暮らせる日は、まだ決まっていない。それでも手紙が行き来し、薬が届く道は残った。
ヴァルドは木片を置きながら、かつての教官が言った言葉を思い出していた。道は兵が使うためにある、と。今はその道を石工や病人や麦の荷車も通る。兵だけを優先すれば橋は詰まり、川も守れない。彼は机の端に三本目の木片を置いた。避難民の道を示す短い印だった。部下に見せると、道を分けるための標識を設けようという案が出た。
その晩、ヴァルドは返書を読み、机に置いた二本の小さな木片を動かした。一つは軍の街道、一つは水路の作業道を示す。二本が交わらずに済む場所を、彼は地図の上で探していた。




