眠らない記録室
エルデン領の首府では、各地から届く報告を夜通し整理していた。記録官の若者イナは、同じ日に橋の市場と峠の戦闘についての知らせを受け取った。
橋では荷車が通った。峠では村が一つ空になった。遠い南西では崩れた街道を共同で調べている。どれも同じ大地の出来事だが、一枚の報告書にまとめるには形が違いすぎた。
上官は軍事的に重要なものだけを抜き出すよう命じた。イナは命令に従いながらも、民の暮らしに関する紙を別の棚へ残した。戦で勝つか負けるかだけでは、翌年の税も人口も分からない。
棚の奥には、古い時代の世界地図が保管されていた。都市の名前は今と違い、海を越える線が幾本も引かれている。イナはその地図を広げるたび、不思議に思うことがあった。
大陸の西にも東にも、別の国々が存在した。いまの人々は遠くの国の形を知らない。それでも戦の知らせは、何か月もかけて少しずつ届いてくる。
イナは地図をしまい、ラウゼの避難民についての報告に印を付けた。首府では彼らのために何ができるか、まだ議論さえ始まっていない。
夜勤の同僚は、首府に届く報告が最近増えたと愚痴をこぼした。イナは紙を二つの棚に分けるのを手伝ってもらい、地名ごとの見出しを作った。軍が進んだ場所と、避難民が動いた場所が同じとは限らない。以前は一枚の地図に旗だけを描いていたが、いまは人の移動も別に記録する。広い世界を知るほど、ひとつの印で表せないものが増えていった。
夜明け前、別の使者が到着した。外套についた雪を払い、封書を渡す。イナは休む前に、その宛名が西岸の司令部からのものであることを確かめた。




