見知らぬ紋章
ルーヴェの堤防を直すため集まった職人の中に、見知らぬ紋章の盾を持つ男がいた。濃い緑地に白い斜線が一本。東岸にも西岸にも、北方にもない印だった。
町長イベラが尋ねると、男は遥か西の湿原諸国から来たと答えた。そこでは十以上の都市が同盟と離反を繰り返し、今は水門をめぐって戦っているらしい。
「戦から逃げたのか」
「仕事を探しに来ました。戦は故郷にもありますが、ここにもある」
男の名はオーデン。石の積み方をよく知っていた。彼は堤防の足元にある割れを見つけ、ただ土嚢を増やしても潮で流されると指摘した。
職人たちは最初、その言葉を疑った。遠い国から来た者に口を出されるのが面白くなかったからだ。それでも試しに石を外すと、内側には大きな空洞ができていた。
イベラは男を修理班に加え、働いた日数だけ賃金を払った。紋章については、それ以上聞かなかった。
仕事終わり、オーデンは堤防の向こうの海を眺めた。
「この海の先にも、町があるそうですね」
「昔の地図にはある。でも今もあるかは知らない」
オーデンは故郷で見た盾の模様を、子どもにせがまれて砂に描いた。白い斜線は水路を越える道を表すのだという。今はその道をめぐって同じ地方の都市同士が争っている。子どもは不思議そうに首をかしげた。「道なら、みんなで通ればいいのに」。男は返事を探したが、うまく見つからなかった。代わりに彼は砂へ橋を描き足し、流されない石の置き方を教えた。
若い職人は斜線の紋を覚え、翌朝も男と並んで石を運んだ。
イベラが答えると、男は頷いた。故郷から遠く離れても、知らないことばかりだと分かったのだ。




