開かなかった市場
橋の近くに市を開く計画があった。東岸の野菜と西岸の革製品を交換すれば、避難民の暮らしも助かる。メレンが交渉を進め、両岸の商人が屋台を用意した。
ところが当日の朝、橋の西側で通行検査が長引き、商人が渡れなくなった。警備隊は新しい名簿が届いていないとして、一人ずつ確かめていた。
屋台には東岸の野菜だけが並び、売れ残ったものが寒さで傷み始めた。商人たちは怒ったが、門番も責任者が不在で困っていた。
メレンは橋の中央まで行き、双方に渡す書面を作った。商人の名、積み荷、戻る時刻を書き、毎回同じ形式で確認できるようにする。
「紙が増えるだけじゃないか」
ある商人が言う。メレンは首を振った。
「紙が一枚あれば、同じ質問を十回しなくて済む」
昼過ぎ、最初の荷車がようやく通った。店を開く時間は短くなったが、西岸の革職人が東岸の農夫へ靴底を売り、代わりに干した野菜を受け取った。
夕方、商人たちは翌日も来るか相談した。利益は少なく、橋を渡る手間も大きい。それでも必要なものを持つ相手が目の前にいることは分かった。
翌日の市のために、革職人は靴底を二組多く作った。東岸の農夫は売れ残りを恐れて野菜を少なく積むことにした。誰も大きな利益を期待していない。それでも橋を渡るとき、初日のように一人ずつ説明しなくてよいなら、商売を続けやすくなる。メレンは名簿の字が読めない者のため、荷の種類を絵で示す札も用意した。小さな工夫が、検問の列を短くした。
メレンは屋台が片づいた広場を歩き、売れ残った野菜を医療所へ寄付できるか尋ねた。小さな市は一日で終わったが、次の準備はすでに始まっていた。




