閉じなかった門
ヴァルドの机には三枚の報告があった。東岸の穀物量、自軍の残りの配給日数、それに昨夜届いた水路の地図だ。三枚目だけは軍の測量官が描いたものではなく、水番の娘が父とともに補修したものだった。
呼び出されたミラは泥の付いた靴を気にして入口で止まった。ヴァルドは座るよう促し、何も責めずに聞いた。
「門を閉じた場合、どの村から干上がる」
ミラは十二の名前を順に言った。最後の村の住人はたった十二人。それでも畑も墓も残り、冬もそこで暮らしているという。
「報告には廃村とある」
「軍の人が来なくなってからも、暮らしています」
司令官は人口記録を裏返した。紙にない人間を救援計画に数えることはできない。紙にないからといって、水まで奪う理由にもならなかった。
「堰を戻すには」
「石工と運び手が必要です。日数は現場を見ないと分かりません」
明快でない返事に、ヴァルドはむしろ安心した。昨日の作戦会議では、堰を閉じれば敵は三日で困ると断言した参謀がいたからだ。
彼は水門閉鎖を保留し、各村の実住人口を調べるよう命じた。同時に兵を一部、上流の石運びへ出す決定もした。副官は、前線の兵力が減ると異議を唱えた。
「水を失えば来年は軍を食わせられん」
司令部の窓からは、整列した盾の列が見えた。ヴァルドは若い頃、水を断てば敵が降伏すると教わった。しかし水を奪われた村から最初に去るのは兵でなく子どもだと、南方勤務で知っていた。机の報告と目の前の娘を見比べ、彼は言葉を慎重に選んだ。
ミラは司令部を出ると真っ先に川へ戻った。門の木枠に手を当て、水の震えを確かめる。命令書はまだ届いていなかったが、少なくとも今日、流れは止められずに済んだ。




