母の手紙
峠で亡くなった少年兵の木札が、ようやく母親のもとへ届いた。届けたのはグラウゼンの街道を行き来する郵便使いだった。母親は木札を受け取ると、部屋の隅に座り、その縁を何度も撫でた。
息子がどこで死んだのか、届け人には詳しく分からない。橋の医療所で最期を迎えたことと、名前が分かるまで墓が守られていたことを話した。
「ひとりだったのですか」
「医師がそばにいたと聞いています」
母親はそれだけで少し顔を上げた。生き返るわけではない。けれど、見知らぬ土地で誰にも呼ばれず死んだのではないと知れた。
彼女は息子の古い外套を取り出し、袖に付いたほつれを直し始めた。もう着る人はいないのに、手が動いた。届け人は急がず、その作業が終わるまで座っていた。
帰り際、母親は小さな包みを差し出した。村で採れた乾燥した薬草で、医療所へ渡してほしいという。金を払う余裕はないが、何か返したかったらしい。
包みは何人もの手を渡り、春を迎える前に橋の医療所へ届いた。テラは薬草を調べ、使える分だけ棚に入れた。添えられた紙には感謝の言葉と息子の名が書いてあった。
母親は、木札の裏に息子が幼い頃刻んだ小さな線を見つけた。背が伸びるたび家の柱に印を付け、最後の一つだけ木札へ写したのだと彼女は語った。届け人はその話を聞いたが、記録するか迷った。軍の死者名簿には要らない情報だった。それでも帰りの帳面へ一行だけ書いた。少年が兵になる前に、そこで生きた時間があったことを忘れたくなかった。
その名は墓標にも刻まれていた。遠く離れた二つの場所で、同じ文字がようやく並んだ。




