塩田の投票
赤環市では、二重の通行税を続けるか否かを決める投票が開かれた。投票権を持つのは塩田の所有者と一部の商人だけで、荷を運ぶ人足には票がない。徴税官フェルマはその制度を変えたいと思っていたが、今は税そのものが争点だった。
市参事会は警備費を理由に継続を訴え、塩商人は道に荷が戻らなくなると反論した。フェルマは過去三か月の税収と出荷量を並べ、どちらの数字も隠さなかった。
「税が高い月に収入が増えたのは事実です。しかし来月に通る荷車は減ります」
投票の日、塩田の職人たちは外で結果を待った。自分たちが作った塩が売れず倉に積まれれば、賃金が止まるからだ。
票は僅差で分かれた。二つ目の門の税を廃止し、代わりに市内の宿泊費から少しだけ警備費を集める案が通った。反対派は治安が悪くなると警告した。
フェルマは喜ぶ前に、宿の主人たちを呼んで新しい負担を説明した。宿には泊まらず通り過ぎる商人が増えるかもしれない。それなら宿屋もまた困る。
夕方、投票に参加できなかった荷運びの青年が問いかけた。
「今度は僕らの賃金が上がりますか」
投票後、フェルマは反対票を投じた塩田主の屋敷も訪ねた。彼は新しい税制では兵の給金が足りなくなると懸念している。フェルマは実際の支出表を見せ、節約できる項目を一緒に探した。対立した相手を黙らせることが、翌月の徴税を楽にするわけではない。反対派の理由を帳簿に残すことも、彼女の仕事だと思っていた。
フェルマは答えを約束できなかった。ただ、塩の流れを止めないために働いていることだけを伝えた。税の札を剥がす門では、夜になっても職人が板を打つ音がした。




