雪の下の道標
ラウゼから逃れた避難民は南の街道で雪に遭った。年寄りの足が遅れ、荷車の車輪は凍った轍にはまり込んだ。道案内の青年は、先に行けば小さな宿駅があると言ったが、建物が残っているか分からなかった。
イザクは兵を二手に分け、一隊を先へ走らせた。残った兵は荷車の下へ板を差し入れ、少しずつ動かした。剣より木の板が必要な時間だった。
夕刻、先遣隊が戻った。宿駅は焼けずに残り、井戸も使える。ただし収容できる人数は少ない。イザクは高齢者と幼い子を先に送り、歩ける者は翌朝まで倉の軒下で待つことになった。
村長が人数を数えたとき、十四歳の少年が一人いなかった。最後に見たのは荷車がはまった場所だったという。捜索に出ると、少年は雪の中で犬を抱えて座っていた。家から連れてきた犬が歩けなくなり、置いて行けなかったのだ。
「抱えたまま道を戻れるか」
イザクが尋ねると、少年は首を振った。兵が犬を毛布に包んで背負い、少年は自分の足で歩いた。
宿駅で火に当たった後、少年はようやく涙をこぼした。犬のためではない。故郷の家が戻らないかもしれないと、暖かい場所で初めて考えられたからだった。
宿駅の主人は、逃げてきた者の人数を見て食料庫の鍵を握りしめた。自分の家族だけなら冬を越せる量しかない。イザクは無償で開けろとは言わず、ラウゼの残った軍費から代金を払うと約束した。領邦がなくなるかもしれない今、その約束を信じるのは難しい。それでも主人は最初の鍋を貸した。若い兵が火の番を引き受け、少しずつ湯が沸いた。
翌朝、避難民はまた南へ歩いた。道標は雪に半分埋まり、進む方向だけを残していた。




