勝った側の倉
峠を押さえたミシュラ軍は、翌朝になって補給が追いつかないことを知った。道は狭く、食料を積んだ荷車は後方で立ち往生している。前線では兵が空腹を訴え、負傷者の包帯も不足していた。
指揮官ゲレンは村の家々を調べさせたが、残された食料は少なかった。避難した住民が運べるものを持ち出したからだ。部下は倉を壊して探すよう求めた。
「壊したら、次に使う者が困る」
ゲレンは探索を止め、後方からの補給を待つ間、峠の通路を広げる人手を集めた。ただし兵を工事へ回せば、防備が薄くなる。
勝利の報告を送った本国からは、さらに南へ進めという命令が届いた。ゲレンは現状を記し、食料が届くまでは難しいと答えた。命令を無視したわけではない。ここを維持できなければ、南の戦場どころではない。
午後、村に戻ってきた老人が一人いた。家の地下に薬を置いてきたという。兵は彼を捕らえようとしたが、ゲレンは護衛を付けて家へ行かせた。病人に渡す薬なら、奪っても軍は助からない。
老人は薬箱を抱えて出てきた。ゲレンへ礼は言わず、去り際に一度だけ家を振り返った。
後方の兵糧官は、将軍へ麦の輸送に五日かかると報告した。道を修理しても、空の荷車を引き返させる必要がある。ゲレンは追撃用に揃えた兵の一部を荷運びへ回した。勝った軍が立ち止まるのを弱さと呼ぶ者もいるだろう。それでも彼は、腹を空かせた兵に次の坂を登らせれば、敵を倒す前に自分の隊が崩れると考えていた。
勝った軍は峠を取った。しかし、そこに住んでいた人々の帰る日を決める権利まで得たわけではなかった。ゲレンはそのことを、軍議で部下に言い聞かせた。




