仮の停戦線
畑道の衝突を受け、エドランとヴァルドは巡察範囲を定めるため使者を交わした。互いに署名する正式な停戦ではない。村の道と水路だけを、盾兵が争わず通れるようにする取り決めだった。
地図を持ち寄った測量士ヴェラは、二つの軍が使う縮尺が違うことに気づいた。古い測量具の精度も揃っていない。境を一本の直線で描けば、どこかの畑が分断される。
「畑を避けて曲がる線でもいいでしょう」
ヴェラが提案すると、西岸の将校は不満を示した。軍では真っ直ぐな境のほうが守りやすい。しかし村人の暮らしは定規の上にない。
最終的に、川沿いの一部を双方の巡察禁止区域とし、連絡が必要な場合は村の水車小屋で待ち合わせることになった。小屋の持ち主は、軍人が勝手に入るなら水車を止めると言った。
「ここは粉を挽く場所です。話し合いは外でしてください」
両軍はそれを受け入れた。
数日後、最初の確認会が小屋の前で開かれた。兵は剣を納め、測量士だけが地面の線を確かめた。誰も相手を信頼してはいないが、互いに使う場所を把握することはできた。
帰路、ヴェラは村の子どもから国境はどこかと尋ねられた。彼女は答えに迷い、川と畑を指した。
会合が終わったあと、ヴェラは二つの地図の写しを同じ紙へ重ねた。線が一致しない場所には村の名前を書き、巡察の空白が生まれる位置を印した。監視が薄くなれば盗みが増えるかもしれない。それも村人から聞いていた。彼女は村長へ見張りの相談をするよう勧め、軍同士の合意だけで安心してほしくないと説明した。
「昨日より少しだけ、誰も剣を抜かずに歩ける場所が増えた。いまは、それを覚えていて」




