消えた鐘楼
西岸の丘陵にある鐘楼から、毎朝の鐘が鳴らなくなった。近くの村は敵襲を疑い、若者が盾を持って駆け上がった。しかし鐘楼には誰もおらず、鐘の綱が床に落ちていただけだった。
鐘を鳴らしていた老僧は三日前に病で倒れ、隣村の親戚が引き取っていた。誰も代わりの鐘番を決めず、知らせも伝わらなかった。
村長はほっとする一方で、朝の鐘がないと働く時間が揃わないと困った。畑へ出る者、共同井戸を使う者、番を交代する者。鐘楼は戦を知らせる施設ではなく、村の日常を合わせる場所だった。
若者の一人が明日から鳴らすと申し出た。だが老僧は鐘を一定の間隔で打ち、季節によって朝の時刻を変えていたらしい。彼らは老僧のもとへ行き、やり方を聞いた。
老僧は寝床で苦笑した。
「鐘は力いっぱい打つものじゃない。村が聞けるように打つものだ」
若者は二日間練習し、三日目に初めて朝の鐘を響かせた。少し早すぎて、パン屋が慌てて炉へ火を入れた。
その頃、ヴァルドの司令部には丘の鐘が止まったという報告が届いていた。敵が街道を抑えた可能性があるとして、偵察隊が準備されていた。新しい鐘音を聞いた斥候は、道の途中から引き返した。
鐘楼の階段は急で、老僧が倒れてから掃除されていなかった。若者たちは埃を払い、腐った段を交換することにした。鐘を鳴らす仕事には、その鐘まで登る道を守る手間も含まれる。村の大工は材料が足りないとぼやき、古い家の板を譲ってもらった。朝の音が戻った裏で、誰かの納屋は少しだけ風通しが悪くなっていた。
司令部で一行の訂正が書かれた。鐘楼健在。番人交代。軍事的異常なし。けれど村の子どもたちには、新しい鐘の音が少し高く聞こえていた。




