山の音信
グラウゼンの山村から、一か月ぶりに使者が着いた。雪崩で道が塞がれ、村では病人を運べずにいたという。セリアは兵を出す前に、使者の持ってきた地形図を見た。
「ここは何度も崩れるのか」
「春には毎年です。今年は冬の前に落ちました」
使者は老人だった。村の子どもたちが塩を舐めるのを我慢し、食べ物を長く保てなくなっていると話した。北方の塩不足は市場の値札だけの問題ではなかった。
セリアは荷を軽くして、人が背負って通れる山道を探させた。剣士に頼るのでなく、地元の案内人を雇う。山の斜面を知る者なしに隊列を進めば、兵も村人も埋まってしまう。
探索隊は二日後、小さな尾根道を見つけた。荷車は通れないが、二人で樽を担げば越えられる幅がある。
最初に塩を届けたのは、村の生まれの案内人だった。家へ戻ると母親は彼を叱った。
「危ないところへ行くなら、先に言いなさい」
彼は笑って、背負った荷を下ろした。村では足の悪い老人から先に塩を分け、残りは共同の倉に置いた。
塩を運んだ案内人は、自分の足跡を翌朝確かめた。雪が柔らかくなれば、同じ尾根も危険になる。村の若者には無理に後を追わないよう告げ、降りるときの目印を教えた。セリアへは、塩が届いたという報告に加え、同じ方法を何度も使えないと書き送った。命を救った道だからこそ、いつまでも安全だと勘違いしてほしくなかった。
山の暮らしを守るには、運ぶだけでなく引き返す道も要る。
セリアは報告を受け、尾根道を軍の通行路にしないと決めた。多人数で踏み固めれば崖が崩れる恐れがある。地図の細い線は、救援用のまま残された。




