水番の娘
西岸の水番ミラは、朝ごとに水門の水位を測った。十七歳になった彼女の帳面には、父が残した数字が五年分あり、流れが変わる季節も、石の隙間から漏れる水の量も分かっていた。
その朝は指二本ぶん低かった。上流の堰が壊れて以来、川の大半が北の涸れ谷へ逃げている。南の畑には、芽を生かすだけの水も残らなくなりつつあった。
西岸軍の兵が二人、水門へ来た。年長の兵士は書状を広げ、「東へ流れる水を止めよ」と命じた。ミラは門柱の木札を指した。
「ここを閉めたら、先に干上がるのは西の十二の村です」
「命令だ」
「十二の村には、まだ人がいます」
若い兵が剣の柄に触れた。年長の兵はその手を押し下げ、なぜそうなるのか聞いた。ミラは父が継ぎ足した古地図を出し、地面に広げた。幾本もの水筋は国境で途切れず、村へ、畑へ、最後は大河へと繋がっている。
「この線は、いまの軍の地図にありません」
年長の兵士がそう呟いた。地図の端には、焼け跡に小屋を建て直した集落の名前まで小さく記されていた。軍の帳面では無人と扱われている場所だった。
兵は地図を預かり、司令部に届けると約束した。ミラは自分の仕事に戻った。午後になって流れはまた弱まったが、門はまだ開いていた。
ミラには幼い弟がいた。弟は水路の脇で小石を並べ、どの石が水に流されるかを毎日試している。彼女は危ないから近づくなと叱りながら、流れを知ろうとする弟の指先に父の面影を見た。戦の知らせは弟の遊びまで変えていない。
日暮れに母が運んできた薄い粥を食べながら、ミラは父の数字を見返した。減った水を戻す方法なら、父はきっと最初に石の位置を調べただろう。彼女は新しい頁に、上流へ行く日を書き込んだ。




