十九人の村長
会議が開かれたのは、橋から半日歩いた旧駅舎だった。崩れた屋根を板で覆った広間には十九人の村長が集まり、黒板には村ごとの麦と豆の備蓄が書き並べられていた。
「二万人を入れたら、うちの子どもが食べる分は残るのか」
南の果樹村を預かる老女イーサの問いに、誰もすぐ答えなかった。若い村長は去年の飢えを語った。六人の子どもが春を迎えられず、今年は家々が種麦を別室に隠しているという。
北の村長レオンは革袋を机に置いた。乾いた豆がひと握り入っていた。
「種を煮れば一度は腹が満ちる。来年の畑は空になる」
エドランは議決を迫らなかった。軍なら橋を閉ざすのは簡単だ。しかし伝令が告げた二万の民には、寒さに耐える老人や歩けない子どもが含まれている。
「西岸の畑は、本当に使えないのかね」
イーサは壁に掛かった地図を指した。西岸の水路は古い石造りで、上流の堰が崩れたと噂されていた。
「見ないで麦を渡すか決めるのは、順番が違う」
議論はようやく作業の形になった。村々は石工を出し、軍は安全な道を確かめる。医師には橋へ向かう準備を頼む。一方で倉の封印は解かず、食料の計算をやり直すことにした。
十九人はそれぞれ違う村から来ている。山の村では雪が早く、川の村では湿気で麦が傷む。数字を一つにまとめれば簡単でも、実際に何を節約できるかは村ごとに違った。若い書記は同じ用紙を配るのをやめ、余白のある大きな紙を取り出した。
会議が終わる頃、外では村人が雪囲いの板を打ちつけていた。世界の戦争がどこまで広がろうとも、その音は毎年同じだ。エドランは駅舎を出て、決まらなかったことと、今日決められたことを別々に帳面へ記した。




