病院の椅子
橋の東側に設けられた医療所では、椅子が足りなかった。医師のテラは重症者を寝台に移し、軽傷の者には壁際で待ってもらう。床には濡れた靴の跡が重なり、薬草の香りと煮沸した布の匂いが混じった。
ハルヴァンの次女もようやく診察を受けた。熱は下がりかけていたが、肺の音が弱い。テラは母親に体を温め、呼吸が乱れたらすぐ呼ぶよう教えた。
「西岸へ戻してもいいですか」
母親は尋ねた。夫が向こうの軍にいるからだ。医師は首を振らなかった。ただ、夜に移動させる危険と、寝かせておくほうがよい理由を一つずつ説明した。
隣の椅子には東岸の老兵が座っていた。剣で切られた手の傷を縫ったばかりで、西岸の子を見ると顔をそむけた。テラは彼に包帯の替えを渡し、娘の母親には水を頼んだ。
二人は同じ棚から必要なものを受け取り、短く礼を交わした。敵味方について語ることはなかった。
夕方、医療所へ新しい寝具が届いた。運んだのは、種麦の選別作業に参加した女たちだった。古い麻袋をほどき、洗って縫い直したものだという。
テラはその布に触れ、裂け目がないか確かめた。患者が増えればすぐ足りなくなる。それでも今夜、冷たい床で眠らずに済む人がいる。
医療所には薬だけでなく湯を沸かす薪も要った。テラは看護の手伝いに来た人々へ、布を洗う班と火を見る班を分けて頼んだ。怪我人の数だけを数えても、必要な手の数は分からない。娘の母親は自分にもできることがあると知り、しばらく水桶を運んだ。夜更け、子は眠ったままだったが、額に触れた手へ返る熱は前夜より穏やかだった。
窓の外では、橋を渡る人数を数える兵の声が途切れず続いていた。




