焼けた畑の境
大河の南で、農家が一つ焼けた。東岸の若い巡察兵エリンが着いたとき、屋根は落ち、畑には踏み荒らされた跡が残っていた。家族は無事で、隣村の納屋に避難しているという。
村人は西岸の兵が火を付けたと口々に言った。しかし目撃者はおらず、見つかった盾の破片には紋章がなかった。エリンは灰を調べ、竈の石が割れているのを見た。火の始まりが屋内だった可能性もある。
「敵を庇うのか」
家主の兄に責められ、エリンは首を横に振った。
「誰がやったか分からないまま、別の家を焼きたくないんです」
翌朝、村の鍛冶職人が古い煙道を確かめた。そこには鳥の巣が詰まり、排気が戻りやすくなっていた。それだけで火事を説明できるとは限らない。だが攻撃の痕跡も見つからなかった。
家主は自分の不注意だと言われたように感じ、沈黙した。エリンはその家族に住まいの手配が必要だと報告し、原因の欄には「調査継続」と書いた。
夕方、別の巡察隊が西岸の集落に小競り合いを仕掛けようとしていると聞き、彼女は伝令を走らせた。行き先が違えば、命令は日暮れまでに届かない。
家主の妻は灰の中から鍋を拾い出した。片方の取っ手が曲がっていたが、底には穴がない。新しい家ができるまで隣村の竈で借りられるよう、彼女は泥を落として磨いた。エリンは事情を聞くうち、火を付けた者を探すことと、今夜の食事を作ることが別の仕事だと気づいた。巡察隊には捜査の継続を命じ、村の世話役には板と毛布の手配を頼んだ。
それでも翌朝、境の畑には新しい火が上がっていなかった。家主は焼け残った種箱を掘り出し、黒くなった蓋をそっと開いた。中の種は半分だけ、まだ生きているようだった。




