帰らない商隊
北方連合が探していた三つの商隊のうち、一つが山の中腹で見つかった。荷車は道を外れて倒れ、塩樽の蓋が割れている。周囲に剣の跡はあったが、焼けた建物も軍旗も残っていなかった。
斥候長のヤンは現場を見て、追い剥ぎと決めつけなかった。車輪の轍は崖へ向かう途中で途切れ、崩れた路肩に新しい土が見える。誰かが荷を奪う前に、車が転落したらしかった。
谷底には生き残りがいた。荷を守っていた商人の娘で、折れた足を布で縛り、一人で雨をしのいでいた。ヤンは毛布を渡し、彼女が話せるまで待った。
「父は、下へ水を探しに行きました。戻ってきません」
捜索は夕方まで続いた。父親は崖の岩陰で亡くなっていた。剣による傷はなく、転落したとき頭を打ったようだった。
娘は泣かず、父の荷札を受け取った。グラウゼンの市場へ塩を届ける約束が書かれていた。
「荷は運べますか」
彼女が尋ねたので、ヤンは破れた樽の数を数え直した。半分は雨で流れたが、残りは使える。村から荷車を借りれば北へ届けられる。
報告を受けたセリアは、まず娘を医師に預け、街道の崩落箇所を地図へ加えさせた。商隊が帰らなかった理由は一つではない。門の税、盗賊の噂、崖崩れ、そのどれもが人々の暮らしを狭くしていた。
娘が持っていた小袋には、塩以外にも市場から託された手紙が入っていた。宛先の一つは北の肉職人、もう一つは山村の医師。ヤンは濡れない場所へ移し、届け先ごとに並べた。荷が失われても、人が待っているのは品物だけではなかった。
塩が市場に届いた夜、アーネは値札を少しだけ下げた。失われた二隊の行方は、まだ分からなかった。




