一冊の出生簿
アスタレから逃れた人々の中に、城の書記をしていた女性がいた。名はローデ。背負った袋には衣服より厚い帳面が入っている。避難民の数を尋ねられると、彼女はまず子どもの名前を書き始めた。
帳面は国の出生簿だった。誰がいつ生まれ、どの家で暮らしたかを記したものだ。村ごと失われても、残った者が親族を探せる。ローデは城が燃える前にこれだけを持ち出したという。
北方の役人は帳面を国の財産として預かろうとした。ローデは拒んだ。アスタレの国が残っているか分からないからこそ、見知らぬ役所にしまわれれば人々は探せなくなると訴えた。
教師は公開すると子どもたちが兵役の対象にされる恐れがあると言った。逃げた先の国でも、年齢を知れば徴兵を考える者がいる。ローデは記録を残す責任と、守る責任の間で迷った。
結局、帳面は避難民の集会所に置き、閲覧には家族二人の立ち会いを求めることになった。写しはまだ作らない。書記は小さな机で墨を摺り、燃えた頁を一枚ずつ修復した。
出生簿に同じ名が三度現れる頁があった。一つの村で祖父と父と子が同じ名を継いでいたからだ。役人は別人と判別できないと言ったが、ローデは家の横に刻んだ井戸の印を説明した。国が消えても土地の習慣まで消えたわけではない。記録を開くたび、彼女は小さな違いを見落とさないよう紙の縁へ印を書き加えた。避難民は自分の家の名を教え始めた。
それぞれの書き方を確かめるため、頁はゆっくりめくられた。
コランは帳面の前へ座り、母の名を探した。名は見つかったが、生死は書かれていない。それでも母がこの世にいたという一行を、少年は指で何度もなぞった。




