崖道の盾列
アスタレへ続く細い崖道で、調査に出た猟師二人が戻らなかった。セリアは救援に五十人を付け、雪解けで脆くなった道へ送り出した。隊長のダンは、地形を知らない兵を前へ出さず、地元の羊飼いを案内に立てた。
曲がり角を越えると、灰色ではない盾が岩陰から現れた。敵は十数人。狭い道に盾を横向きに置き、進む者を押し返した。ダンは先頭を替えながら近づいたが、剣を振る隙間がなく、盾同士が岩を擦った。
一人の兵が足を踏み外し、縄に掴まってぶら下がった。後方の者が引き上げようとした瞬間、敵の剣が腕を斬った。ダンは部隊を二列にせず、一人ずつ負傷者を引き戻した。道の狭さが数の有利を消していた。
敵は奥へ退いた。倒れた盾の裏にはアスタレの古い印が描かれていたが、使っていた者がアスタレの兵とは限らない。猟師の一人は岩の下に隠れ、もう一人は発見できなかった。
帰路、ダンは危険な曲がり角の高さを木札に刻み、次の隊へ渡した。誰が道を守っているかは分からない。だがこのまま大軍を通せば、同じ場所でさらに多くが死ぬ。
救出された猟師は片方の靴を失い、右足の指を凍傷で痛めていた。軍医は冬靴を一足渡したが、猟師は自分の足に合わないと笑った。長く山で働く者にとって靴底の厚みは道を読む感覚に関わる。村の革職人が直し、靴の片側だけ厚い布を縫い込んだ。道を知る人間が次も歩けるかどうかは、軍の報告より小さな工夫に左右された。
セリアは報告を読み、王国の滅亡について新しい断定をしなかった。救出された猟師は、谷の奥で子どもの泣き声を聞いたと伝えた。その声の持ち主を探す仕事だけが、別に残された。




