首府の偽の地図
エルデン領の首府で、記録官イナは北方から届いた二枚の地図が食い違うことに気づいた。片方には小国アスタレの避難路が描かれ、もう片方には同じ道が沼地として塗りつぶされている。どちらも使者の印は本物だった。
イナは道を消された側の村名を古い名簿から探した。村には百二十六戸があった記録が残るが、最近の納税台帳にはない。焼けたのか移住したのか、役所にも知らせが届いていなかった。
領主の顧問は、正確な地図を作れと言った。だが同じ日に二つの現地報告がある以上、遠くの机で選べるものではない。イナは二つを重ね、確かでない部分を点線で囲んだ。大きな空白が地図の中央に残った。
この点線を見た若い兵站官が、不安な道を使うくらいなら遠回りさせればよいと言った。イナは迂回路の橋が昨秋に流された報告を示した。その印も確実ではない。道を一つ消すたびに、誰かの帰り道が消える。
使者が到着すると、地図を描いた者はどちらも同じ山を見ていなかったと分かった。一人は春の川を、もう一人は雪の日の道を確かめていた。時期の違いが、矛盾した印を生んだらしい。
兵站官は過去の荷車事故を調べ、川を渡るために仮橋を架けたときの記録を見つけた。材料を出した村は、橋が壊れても返金されていない。新しく道を選ぶ前に、その村が今も道具を貸せるか調べることになった。地図に残る線には、作った者と維持する者がいる。イナは報告の欄へその名も書くよう頼んだ。
イナは地図の端に調査月を大きく記した。間違いを隠すより、いつの真実だったか分かるようにする。その夜、首府の兵站官は北へ出す荷車を一日だけ止め、渡れる橋の情報を集め直した。




