古い国境石
エルデン領の東端にある山村では、国境石が家の土台になっていた。第三次大戦後に幾度も境界が引き直され、今では石に刻まれた記号を読める者がいない。村の境を守るのは、地図よりも隣人の記憶だった。
村長代理のローナは、西岸の避難民を受け入れるか決めるため戸を叩いて回った。先に子どもを二人預かれる家があり、その隣には一人暮らしの老人が住んでいた。
「うちは無理だ。薪も足りん」
ローナは断りを帳面に書いた。断った家を悪者にしても、薪は増えない。代わりに森を管理する人へ事情を伝え、共同の薪積みを調べてもらった。
昼、村の若者が山道から戻り、見慣れない灰色の盾の兵を遠くで見たと話した。北方連合の斥候かもしれない。だが誰もその兵から被害を受けたわけではなかった。
ローナは村の見張りを増やすより、夜道の標識を修理することを選んだ。避難民が暗い坂で転べば、冬場はそれだけで命を失う。
夕刻、預かる予定の少年二人が着いた。片方は革袋を抱え、中には故郷の土が少しだけ入っていた。母親に忘れるなと言われたらしい。
ローナは袋を取り上げず、居間の窓際に置く小さな皿を用意した。二人はその前でしばらく黙っていた。
村の子どもたちは山道の標識に、小さな石を積んで目印を増やした。ローナは崩れないよう地面を固め、雪の中でも見える高さへ直した。誰かがそこを通った証しは翌朝の足跡だけだったが、踏み外して谷へ落ちた者がいないことは分かった。
峠から来る風には、遠い雪の匂いが混じっていた。
村の端に埋まる国境石は、翌日も動かない。だが、そこを家と呼ぶ人間の顔ぶれは、少しずつ変わっていた。




