二つの命令書
西岸軍の若い隊長ルドは、同じ朝に異なる命令を受けた。一通は南の水路修理を守れとあり、もう一通はそこから兵を引いて橋へ集めよとあった。署名した将校はどちらも上官だった。
ルドは紙を机に並べ、日付と印を確かめた。二通目のほうが新しい。だが堰にはまだ東岸の職人がおり、撤収すれば相手側だけが現場を占める。何より、護衛を失う農夫が作業を続けられるか分からない。
彼は伝令を二人走らせた。西岸の司令部には命令の確認を求め、川辺には撤収を予定していることだけを先に伝えた。
「勝手に待っていいんですか」
副官が尋ねると、ルドは言った。
「勝手に違うことを命じられている。片方を黙って破るより、聞いたほうがましだ」
夕方、ベルクから短い返事が来た。石の据え付けに三日間だけ人手がいる。護衛を減らすなら、作業する岸を一つに絞るという。
翌朝、司令部からは水路を優先せよと返ってきた。二通目は別の隊へ出すはずの命令だったらしい。筆記官が隊の番号を取り違えていた。
ルドは部下に訂正を告げ、間違った書状を破らず保存した。小さな墨の誤りで、数十人の配置が変わりかけた。その重さを忘れたくなかったのだ。
伝令の一人は雨の山道で靴底を破った。帰ってきた彼の足には傷ができていた。ルドは命令の誤りを報告する文に、その負傷も添えた。紙の一文字を確かめるためにも、人は寒い道を歩かなければならない。それが司令部の机からは見えにくかった。
三日後、石が据わるまで護衛は現場を離れなかった。とはいえ橋では別の部隊が増員され、両岸の兵数はゆっくり変化していた。




