拿捕船の帰り先
サルディアの港務局に、拿捕した船を条件付きで返還せよという命令が届いた。船体の修理費は王国が負担するが、過去の通行税は船主が支払う。税務官エルナは帳簿を見直し、船主がすでに港で働いた日数を引いてよいか尋ねた。
長官は命令の文字を指し、そのような定めはないと言った。しかし船主には払える現金がない。荷物は腐り、船員は故郷に戻るための食料さえ不足している。返還の決定はあっても、船が出られなかった。
エルナは港の職人たちから、修理中に船員が担った仕事を数え直してもらった。船腹を支え、縄を交換し、海水を汲み出した記録が残っていた。彼女はそれを王都へ送り、労働の価値を税と相殺する許可を求めた。
船長は返事を待つ間、船へ積む水桶を洗った。故郷の島では冬市場が終わり、春の漁の準備が始まっているだろう。そこへ帰れる保証はない。それでも舟を動かす準備だけはやめなかった。
港の外に巡察船が増えた。海峡の税をめぐる争いが別の海域へ広がり、サルディアの海兵も盾を新しく塗り直している。長官は返還を認める一方、港を出た後の安全までは保証できないと告げた。
拿捕船の船員たちは帰郷の準備として、港で知り合った人々へ借りた道具を返した。縄を貸した男、針を貸した老女、夜の見張りを代わった倉番。帰れるかまだ分からないからこそ、返せるうちに返そうという。エルナはそのやり取りを税の台帳へ載せなかった。金額のない貸し借りまで役所に縛られれば、次の旅人が困る。
エルナは曖昧なままの責任を帳簿へ書き留めた。返すという命令と、帰り着くという事実の間には海がある。彼女は海を測る役人ではなかったが、船が失われれば誰の書類も役に立たないことは知っていた。




