峠の膝をつく兵
連邦と王領の間の低い峠で、盾兵二隊が遭遇した。雨で印が落ちた道標のため、双方が同じ番小屋を自領と思い込んでいた。リナは部下を低地に止め、王領側の隊長へ声を掛けた。
返事より早く、若い兵が盾を押し出した。泥に滑って膝をつき、相手の剣が兜の縁を削った。息が詰まるほど近い距離で、列は互いを押し合った。リナが横へ回ると、番小屋の壁が背後で崩れ、兵の背を打った。
王領の隊長は部下を退かせたが、一人が動かない。盾の下に脚を挟まれていた。リナは自軍の者へ板を持って来させ、敵味方を合わせて四人で壁を持ち上げた。その間も剣を抜いた兵が両側に立ち、誰も警戒を解かなかった。
怪我人を離れた場所へ運び、雨の中で双方の印を確かめた。道標に使われていた岩は、春の地滑りで下へ移動していた。古い境界を知る羊飼いは、目印が動いたことを誰にも知らせていなかった。
議員へ報告が届く前に、二隊はその晩の番小屋を共同で使うことにした。濡れた盾を壁に立て、火を中央へ置く。外の見張りだけは別々の側を受け持った。
倒れた番小屋を調べると、梁に幼い子が刻んだ馬の絵が残っていた。ここを建てた家族のものらしい。修理を始めた大工は絵を削るべきか迷い、羊飼いに尋ねた。羊飼いはその子が今は隣の谷で暮らすと知っており、残してほしいと頼んだ。国境の印と関係のない傷が、壁の内側にあった。
夜明け、双方は自分の側へ戻った。番小屋には修理用の木材が積まれた。怪我人は歩けないが命を取り留めた。国境の線が地滑りで動くことを知っても、王都の地図がすぐ変わるわけではなかった。




