潮に沈む数
河口自治町ルーヴェでは、潮位柱の目盛りがまた一つ失われた。昨年の洪水で柱の根元が傾き、満潮の高さを測れなくなっていた。町の漁師は経験で船を出せるが、上流から来る避難民には危険が分からない。
港務の若い書記ネイは、新しい柱を立てる資金を集めた。商人たちは航路の利益になると賛成し、川沿いの住民は自分たちの税が港へ使われると反対した。ネイは柱を港ではなく、低い家々からも見える堤に立てる案を出した。
工事の途中、古い石段が見つかった。水面へ消える階段の奥には、錆びた金属の扉がある。男たちは昔の兵器倉かもしれないと騒いだが、中は泥で満ちていた。ネイは掘るより柱を建てる作業を続けた。
夕方、小舟が満潮の流れに押され、堤の先で横倒しになった。盾兵が縄を持って駆けつけた。濡れた船腹は滑り、男一人を助ける間に別の者が水へ落ちた。川の流れにはどの旗も通用しない。
二人を救った後、町会は工事費を増やすことにした。柱が立てば全員が助かるわけではない。それでも見知らぬ水位を見知らぬ人へ伝えられる。
潮位柱を立てる際、古い柱を最初に据えた家の孫が工事を見に来た。祖父は王の命令を待たず、洪水の年に仲間と柱を立てたと話したという。ネイはその名を台帳に加えた。目盛りは数字だけでは作られない。水面を何十年も見てきた人々の記憶も、柱の裏側を支えている。新しい柱の土台には空いた石を詰め、揺れを確かめた。
深夜、ネイは新しい目盛りに白い粉を擦り込んだ。遠目にも数が読めるようにするためだった。古い柱はまだ抜かず、横に残した。二本の違いを見比べれば、測り直した理由も忘れずに済む。




