夜の斜面
ラウゼ峠の南斜面で、見張りの鐘が三度鳴った。占領軍の小哨舎が襲われ、盾兵が狭い階段に押し込まれた。襲撃者は名を明かさず、剣の柄に布を巻いて音を抑えている。誰の軍旗も掲げていなかった。
イザクは山道を閉じるより先に、哨舎へ向かう補給人夫を止めた。援軍は二手に分かれ、石の多い斜面から近づいた。霧が流れた瞬間、哨舎の戸が破られ、兵たちの盾が連なって倒れた。
狭い階段では大勢が戦えない。先頭の三人が剣を受け、後ろの者は負傷兵を引きずって下がった。イザクの副官が敵の盾を押し返したが、足場の石が抜け、二人とも斜面を転がった。
襲撃者は夜明け前に退いた。哨舎には七人の遺体と、敵側のものらしい布切れが残った。布は峠のどの村でも織れる麻だった。報告を受けたゲレンも、自軍から兵を出していないと言った。
イザクは負傷した副官の脚を固定させ、哨舎を焼かずに補修した。敵が分からない以上、住民をまとめて拘束する命令も出さなかった。しかし占領軍の兵は、麓の村を歩くとき剣の柄から手を離さなくなった。
夜襲後の補給倉では、炊事係が通常どおりの朝食を作ってしまった。亡くなった七人分の椀も並んでいた。誰もすぐに片づけられず、最後に古参の兵が余った粥を負傷者へ運んだ。人数が減れば食料が余るという理屈は、そこに立つ者には慰めにならなかった。イザクは撤収を急がせず、死者の名を報告に正確に記した。
山に残った足跡は、谷へ下りる途中で三つに分かれていた。その先を追うには、冬の終わりの柔らかい地面を知る案内人が要った。誰を信じるかという問題は、まだ解けていなかった。




