盾の返却日
ゲレンの陣へ、占領地から古い盾が戻された。かつて峠を守った隊のものだ。持ち主は戦死したが、占領軍が農具と一緒に倉へ保管していたという。使者は返還の理由を説明せず、木札に記された名前を読み上げた。
盾の内側には持ち主の妻が縫った布が残っていた。ゲレンはそれを剥がさず、遺族へ届けるよう部下へ命じた。部下の一人は、占領側から受け取った物など汚らわしいと吐き捨てた。ゲレンは否定もせず、では家族に何を渡すのかと聞いた。
その午後、谷の農家に盾が届いた。妻は布を確かめてから、家の戸口の裏へ掛けた。子どもたちは父の顔をよく覚えていない。盾の傷を指して戦い方を尋ねたが、母は「これで雨を防いだこともある」と答えた。
同じ頃、イザクの陣では返還を命じた兵が叱責されていた。戦利品を相手へ渡すことは敗北の印になるという。イザクは、それは武器として使える状態ではなく、倉に置けば錆びるだけだと説明した。
ただし彼は、返礼として捕虜の返還を要求しなかった。家族の持ち物まで交換の札にすれば、次は敵が受け取れなくなる。
盾を運んだ使者は帰り際、家族の庭で長く立ち止まっていた。幼い子が盾の傷を数える声を聞いたからだ。使者自身の家にも、帰ってこない兄がいた。敵地で同じものを返せるとは限らない。彼は帰営しても自分の事情を語らず、盾の持ち主を間違えなかったことだけ報告した。書記は家族の受取印を帳簿に押した。
翌日、谷の村から返礼のパンが届いた。門番は毒を疑って受取を拒んだ。パンは使者の手で持ち帰られ、兵に配られた。互いが一度したことを、次も同じようにできるとは限らなかった。




