塩を運ばない荷車
グラウゼンの北門へ、空の荷車が九台戻った。南で塩を買うはずの隊商である。車輪には赤土が付いていたが、塩の白い粉は見当たらない。女将軍セリアは隊商長を責めず、どの関所を通ったか地面に描かせた。
三本線の旗を見せても、途中の領主は通行を認めなかったらしい。領主軍は剣と盾を並べ、以前に通行税を納めた証文は無効だと言った。彼らの背後では古い街道が崩れ、商人は別道へ回されていた。
評議会では武力で関所を開ける案が出た。市場の塩は残り二十六樽。肉を干す村では、早くも保存をあきらめて家畜を売り始めている。セリアは関所に向かう軍を準備する一方、山に残る岩塩の洞穴を調べるよう職人へ頼んだ。
洞穴は古く、天井の石が落ちていた。掘れたとしても量は少ない。職人は塩の質も確かめていないのに軍へ希望だけ伝えるなと言った。セリアはそのまま報告させた。
夕方、返ってきた隊商の車輪を一つ外して調べると、軸がひび割れていた。追い返されたうえ、急いで戻ろうとして車を痛めていたのだ。車大工は修理に三日必要だと言った。塩があっても荷車がなければ村へ運べない。
門前の住民は塩がなくても魚を干せばよいと話した。しかし北の川は冬に凍り、魚を捕る季節が短い。家畜を塩漬けにする慣習はただの贅沢ではなく、雪で閉ざされる山里の食事を守っていた。隊商長は空の車から木箱を下ろし、帰れなかった商人の家族へ荷物を返した。失敗した買付でも、帰着を知らせる仕事は終わらない。
セリアは門の外で待つ家族に、失敗を隠さなかった。誰かが塩を持って帰るという約束はできない。ただ次の荷車には、帰路を確かめるためだけの案内人を乗せることになった。




