兵舎の欠けた椅子
西岸の軍議では、一つだけ椅子が空いていた。橋の外れで負傷した中隊長の席である。司令官ヴァルドは後任を置かず、参謀たちに次の夜警の配置を尋ねた。誰もすぐには答えない。中隊長が部下の家族の居場所まで把握していたことが、失われて初めて分かった。
書記官は兵の名簿を持ってきた。二十七人が同じ日に三つの場所へ配属されている。勤務を外れた者が帳簿に残り、別の隊へ移った者の報告は届いていなかった。命令は紙の上では成立しても、夜には盾を持つ人間が足りない。
ヴァルドは空席の前へ小さな木箱を置いた。兵たちから届いた手紙を入れる箱だった。頼みはささやかで、母の葬儀に行きたい、家の屋根を直したい、病み上がりの弟を訪ねたいというものばかりである。
一人の参謀が、軍議で私事を読むべきではないと言った。ヴァルドは手紙を閉じた。「戦線を保つ者が帰れない理由も、戦線を保てない理由になる」
その夜の配置は縮められた。巡回を増やさず、見通しの悪い倉の角へ見張り台を作る。二つの隊は共同で火を焚き、欠員の報告先を一つに統一した。
名簿の訂正を任された下士官は、兵の父親の名と本人の名を取り違えていたことに気づいた。家の名を繰り返し使う村の習慣を知らなかったのだ。ヴァルドは全ての兵を呼び出さず、同じ村の古参兵へ順に確認させた。誤った名前が一度命令書へ載ると、配給も給金も違う家へ向かう。剣で生じた傷より遅れて見つかる間違いがあった。
会議が終わり、ヴァルドは空席を壁へ寄せなかった。怪我をした中隊長が戻るかどうかは医者にも分からない。代わりの誰かが座る日もあるだろう。その日の軍議では、いない者の働きを数え直すことで、ようやく命令が一つ書けた。




