屋根裏の麦虫
東岸の大倉で、麦俵の口から小さな黒い虫がこぼれた。倉番の若者は指で潰したが、奥の俵にも穴がある。首府へ報告すれば備蓄不足を疑われる。黙っておけば、春に蒔く種まで食い荒らされる。
倉の監督を任された老女サラは、俵を片端から開けるなと言った。乾いた麦に湿気が入り、被害が広がるからだ。風の通る床へ十袋だけ運ばせ、底に敷いた縄と壁の染みを調べた。三日前の雨漏りが原因らしい。
倉には、橋を越えて避難民へ渡す予定の麦もある。配給を止めれば西岸から苦情が来る。虫の付いた袋を押し付ければ、病人が出るかもしれない。サラは橋の村々へ、倉の状態と見込みの損失をそのまま知らせた。
十九村から返答が届いた。南の果樹村は乾燥棚を貸すと言い、山際の村は種麦を別の倉へ移すよう勧めた。反対に川下の村は、今週の配給を減らせば子どもが飢えると訴えた。全員に同じ負担を求めるわけにはいかない。
夜、サラは見つけた虫を小瓶に入れ、役所ではなく学校の教師に預けた。子どもたちに倉の管理を教えるためだった。損失は翌朝まで確定しなかったが、俵を隠して増やしたことにする帳簿だけは作らなかった。
乾燥棚を借りた村では、麦を広げるため野菜の保存場所を空けねばならなかった。サラは代わりに倉の空き室を貸したが、そこには昨冬の負債証文が山になっていた。帳簿を移すのに夜までかかり、村長は麦の重さだけでなく手伝った人数も記すことにした。損失を埋める仕事にも、それぞれの暮らしが削られていた。
作業を終えた若者が、村へ渡す袋の印を尋ねた。サラは使える麦に青い紐、検査待ちに白い紐を結ぶよう命じた。数字を変えるより、見れば間違えない手順を残す方が先だった。




