数えきれない橋
東岸の記録官イナは、首府の地図へ新しい道を描いていた。大河の旧鉄道橋だけでなく、南の湿地の板道、北方の雪道、遠い海峡の船路。どれも兵が使い、商人が使い、家族が渡ろうとしている。
古い世界地図には、さらに多くの線があった。かつて道路や鉄道と呼ばれた道が大陸を結んでいたが、いまは通れるかどうかさえ分からない場所が多い。
イナの机へ北方の報告が届いた。名も知られていなかった小国アスタレから残兵が逃れ、グラウゼンは受け入れ先を探している。南西の三市連邦では、共同井戸の修理と軍の命令がぶつかっている。
河口からは潮の記録が来た。湿原の水門では葦をめぐる争いが続き、海峡では拿捕船の返還が決まっていない。
イナは地図の中央へ、戦争の終点を描こうとはしなかった。どこで何が終わったかさえ、届いた紙だけでは確かめられないからだ。
橋の守備隊長エドランは、その朝も川の水位を見ていた。西岸のヴァルドは兵糧の残量を調べ、北のセリアは雪道へ送る職人の人数を数えていた。峠のイザクとゲレンは互いの土地を見つめ、動かせる兵の数を測っている。
同じ朝、ルーヴェの港では漁師が舟を引き、ハルノ島では網が乾かされていた。
首府の窓辺には古い陶器の植木鉢があった。記録室の下働きが土を入れ替え、寒さに強い草を育てている。イナは書類の地名を確かめる合間に、葉の向きが毎日少し違うことに気づいた。大陸の戦線は一枚の紙で形が変わって見えるが、草の変化はもっと遅い。彼は新しい地図を広げる場所を確保するため鉢を少し動かし、日の当たる側へ戻した。
イナは新しい報告書に日付を記した。第四次世界大戦の終わりを知る者は、まだどこにもいなかった。窓の外では市場へ向かう荷車が軋み、書類を運ぶ使者が階段を上ってきた。




