返されない箱
港務局に、拿捕船の積荷を一部返してよいという命令が届いた。腐りやすい魚と、個人の持ち物に限る。ただし関税相当額を差し引くと記されていた。税務官エルナは、人形の箱がどちらに当たるか迷った。
売り物ではなく贈り物として運ばれた人形には、代金が付いていない。値段を付ければ税を取れるが、そもそも箱が孤児院へ渡らなくなるかもしれない。
港の長官は、王都へ尋ね直すよう命じた。エルナは返事を待つ間、箱の中身を数え直した。二十個だったはずが十九個しかない。倉庫番は保管場所を替えた際に一つ落としたのかもしれないと話した。
二人で倉を探すと、棚の下に青い布の人形が見つかった。片腕の縫い目がほどけ、綿が少し出ていた。
エルナは裁縫が苦手だったが、港に住む老女から針を借りて縫い直した。老女は事情を聞き、「これを待つ子がいるなら、早く届けなさい」と言った。
しかし箱を送り出す船はまだ決まっていない。港の外では海峡の警備が強まり、小舟ですら検問を受ける。
箱の中には縫い糸と小さな紙切れも入っていた。紙には、贈り主たちが一人ずつ記した短い挨拶がある。王国の書記は異国の文字を読めなかったが、エルナは港の通訳を呼んだ。そこには「眠るとき寂しくありませんように」と書かれていた。通訳の老女は一度読み上げ、箱を閉じた。持ち主のいない貨物として処分するには、あまりに明確な宛先があった。
エルナは箱の蓋へ大きく行き先を書き、返還品の目録に加えた。役所の印を押したとき、これは税の問題だけではないと分かっていた。小さな人形の帰り道さえ決められない国が、海峡全体を支配できると言い切れるのだろうか。彼女はその疑問を、報告書には書かなかった。




